「感情は感情を見つめる」映画「グッバイ・ゴダール!」レビュー

映画「グッバイ・ゴダール!」(2017・仏)

感情は感情を見つめる


「あなたは言葉で語る。私は感情で見つめてるのに」『気狂いピエロ』をもじっていえば、
この映画のテーマとしては「感情は感情を見つめる」と言えるだろう。

五月革命の結末も、資本主義への飽くなき闘争も、政治的議論も、ベトナムでのゲリラも、この映画の主眼にはない。
主眼におかれるのは、ゴダールの感情そのものだ。
革命の気運の中で、商業映画への決別による軋轢の中で、
愛する者の内から見た弱いゴダール、人間として圧倒的に弱いゴダールである。

傲慢で、嫉妬深く、苛立ちやすく、救い難い、泥沼の底にみずから入り込んでいく、軽妙さを失ったゴダールに、観客は自分の姿を重なることができる。それはゴダールの映画ではできないことだ。もういまとなっては。それが描かれる。
ゴダールに惹かれながらも毛沢東語録を読む気にもなれなかった若く美しい女性の瞳、アンヌの瞳を透して。

当然だが映画を見るとき、われわれはその奥にある監督の生活を見ることはできない。
これは自伝を元にした小説の映画化だから、アンヌを通した、つまり近しい女性から見た憂鬱や愛情が入り混じった描写になっており、それは言ってみればアンヌによって歪んだゴダール像だ。


この映画は光の増幅器として作用する。
観客のゴダール像に、影にも似た光を投げる。
ひとりの男性として、孤独な人間として、救い難いゴダールという光だ。
それは難解ゆえに高尚だとかヌーヴェルバーグの寵児だとか既存のイメージとは、別の仕方で作用する。

「映画は現実の反映ではなく、反映の現実である」とはゴダールの言だ。
もっと想像してほしい、想像力だけがぼくらの生きてる意味だ。われわれにもまだ、そんなものがあるとすれば。


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