短歌「あかあかと砕ける」

愛嬌をさわるこわさは盲目に辿る煙の螺旋階段


褐色に唐辛子舞う水面のどこにいるのか鈴振る者は


連れてゆく列車の夜は夢を切る 明日の天気を教えないよう


腐食するセーブデータの餞にスーツを羽織る父を見送る


ザリガニはエビと同じであったろう 傷は報われねどもうるおし


死に至る時流に揺られ往く路の惑わす風の耀かしさよ


恋人は互いの扉を行き来する 星のあいだを横切るように


肉慾の海のごときにうねる夜は錆びつく胸のひずみにとおく


できるだけ傷ませた胸つかみとり投げ込む池の声と太陽


飛散した聖母の汗と血と羽根が踊るまだらの朝の隙間に


セブンティーン夏がいっぱいはしゃいでた 土掘る犬の毛並みさざやか


かつてなく円いスイカはあかあかと砕けるだろう世界の空に


星さわぐ方へ少女の思い切りアクセルを踏む脚の白さよ


愛などと言って終わらせないように汚れた服を着て街に出る